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「真の平和主義~9条の精神生かしてこそ」(北海道新聞)

<憲法から考える>③真の平和主義 9条の精神生かしてこそ(北海道新聞1月4日社説)

安倍晋三政権が掲げる「積極的平和主義」によって、日本は平和国家から「戦争が可能な国」に変えられようとしている。
首相は日本版国家安全保障会議創設法と特定秘密保護法を成立させ、国家安全保障戦略では武器輸出三原則見直しを打ち出した。
今年は集団的自衛権の行使を禁じる現行の憲法解釈見直しに踏み切る構えだ。その先には憲法9条改定による国防軍創設を見据える。
首相のこうした姿勢は昨年暮れの靖国神社参拝と相まって中国や韓国の反発を招き、両国との関係は冷え込んだまま修復のめどが立たない。
積極的平和主義は先の戦争への深い反省に基づく日本の戦後の歩みを逆戻りさせかねない。9条がアジアの安定に果たしてきた役割を再認識し、真の平和主義に基づく安保外交政策を打ち立てなければならない。

■中国への警戒あらわ
米海兵隊のりゅう弾誤射事故が昨年6月に起きた道東の矢臼別演習場を訪ねた。りゅう弾の落下地点は国有地で、町道からわずか数十メートルだ。
案内してくれた酪農家の森高哲夫さんによると、一帯は町民が牧草地として使い、山菜採りをする場所という。米軍は事故から4日後、地元了解も得ないまま訓練を再開した。
国家安保戦略は中国の軍事的台頭を「国際社会の懸念事項」と強調し、海洋進出を「力による現状変更の試み」と厳しく批判した。
その中国に対抗するため、米国の相対的な力の低下を日本の役割拡大で埋めるのが積極的平和主義だ。首相は日米の軍事的役割分担を定めた日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を今年中に見直し、集団的自衛権の行使を反映させる考えだ。
安保戦略に基づく新防衛大綱は北海道を「訓練適地」と位置付けた。道内陸上自衛隊の師団・旅団を、中国との有事の際などに派遣する機動部隊に改編することも打ち出した。
今後は矢臼別をはじめ道内の演習場で自衛隊や米軍の訓練が増加し、危険性が指摘される新型輸送機オスプレイを使った訓練も予想される。
森高さんは「憲法に記されている平和に生きる権利が踏みにじられるのは許せない」と憤る。首相はこうした声に真摯(しんし)に耳を傾けるべきではないか。

■ナショナリズムの影
安倍政権の軍事偏重の動きは近隣諸国への敵対的メッセージになる。首相は中韓両国との「対話のドアは開いている」と再三強調するが、靖国参拝でそのドアを自ら閉ざした。
昨年11月、宗谷管内猿払村で予定されていた式典が中止になった。戦時中に旧陸軍浅茅野(あさぢの)飛行場建設にかり出されて犠牲になった朝鮮半島出身者の追悼碑の除幕式だ。
犠牲者の遺骨収集に当たった市民団体などによる実行委が村有地に追悼碑を設置したことに対し、村役場に約100件の抗議の電話やメールが殺到。村は設置許可が未申請だったとして式典中止を求め、実行委はその後、追悼碑を自主撤去した。
市民団体共同代表で深川市の僧侶、殿平善彦さんは「安倍政権がナショナリズムに偏り、韓国や中国とは融和よりも対立のスタンスになっている。猿払村で起きたことがその流れにあるのは確かだ」と語る。
安保戦略には国民の「愛国心」を養うことが盛り込まれた。中国の脅威を強調して偏狭なナショナリズムをあおり、防衛費増大に理解を得ようとする首相の意図は明白だ。

■安定の鍵は専守防衛 中国は過去10年で国防費を約4倍に増やし、尖閣諸島周辺での挑発行為も絶えない。こうした中で、日米同盟を強化し、中国に対抗しようという首相の積極的平和主義は一見、国民の目にもっともらしく映る。
だが、それは中国との軍拡競争を招き、逆に地域の不安定化を生む。
9条に基づく専守防衛は決して現実離れした概念ではない。侵略された場合に反撃することも、その反撃を外交手段が尽きたときに必要最小限度にとどめることも、国連憲章と現行の国際法が求める水準だ。
奥平康弘・東大名誉教授(憲法学)は、9条に基づき日本が海外で武力行使しないことがアジアの安定に貢献してきたと指摘した上で、「積極的平和主義は、その安定を壊す概念だ」と断言する。 首相は9条で日本の安全は守れないとして改憲を目指している。だが実は9条の理想を実現することが、日本、ひいてはアジアに平和と安定をもたらすことを認識すべきだ。
矢臼別演習場に食い込むように広がる牧場がある。反戦地主として知られた故川瀬氾二さんが最後まで国に売らなかった土地だ。
川瀬さんは米海兵隊訓練が始まった2年後の1999年、牧場の青いD型ハウスに黄色いペンキで9条の条文を書いた。その文字は9条の精神と同様、今も色あせていない。
by kenpou28 | 2014-01-04 10:58
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